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「…秀、行くぞ」

 秀は帯広とは教室が違う。勿論一樹とも違うが。いっそのこともう教室に入ってしまおうと秀に声をかけるが、その場から動こうとしない。

「おい!」
「お前だけ行けばいいだろ」

 帯広が鬱陶しそうに言う。一樹がぎろりと睨むと、帯広も睨み返してきた。ばちばちと火花が散る。周りの人は体を小さくさせながらその様子を見守った。一樹たちの傍を通らなければ、教室に行けないのである。

「あ。でももう教室入らないとな」

 ピリピリとした空気の中、秀が時計を見てのほほんと口にする。一樹と帯広は秀の言葉に脱力して、視線を外す。周りは秀に感謝した。

「帯広、また会いに行くから」
「おう。早く来いよな。退屈だから」

 秀は間を置かず頷く。一樹は溜息を吐いて、もう何も言わなかった。帯広は猫背でふらふらと自分の教室に入っていく。サボらないのかと一樹は少し感心した。しかし帯広のクラスメイトは今頃真っ青だろう。苦笑して、一樹は秀と別れる。別れ際に、今日は昼食を一緒に摂るからと一言添えて。

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