15

 眞子は目線を上に上げる。昼のことを思い出しているようだ。

「ええとね、二人一緒にいたのは少しの間だけだったよ」
「え、何で?」
「神崎くん、食べるの早くて…教室出て行っちゃったんだよ」
「早かった?」

 一樹は訝しげに眉を顰める。秀は、どちらかと言うとゆっくり食べるタイプである。でも、時々さっさと食べてしまう時があった。はっとして一樹は秀を見る。

「秀、お前またあいつに会いに行ったのか!?」
「あ、あいつ?」

 眞子は突然怖い顔をした一樹に驚いて目を丸くした。秀は漸くダンゴムシから視線を外し、一樹を見上げる。

「ん?」
「ん? じゃねーよ! あいつに会いに行ったのかって訊いてんだ!」
「あいつって、誰?」

 何の話をしているのか分からない秀は、不思議そうに首を傾げた。

「帯広だよ! 帯広!」
「ああ、帯広」
「お、おびひろ…って」

 眞子は青くなりながら呟いた。信じられないというように秀を見る。秀は、あの帯広と仲が良いのだろうか。

「会いに行ったけど。昼休み」

 秀はそっとダンゴムシを廊下に置くと、立ち上がる。

「もう会うなって言っただろ」
「何で」
「何でって、危ないだろ」
「帯広がそんな奴じゃないってのは、一樹も知ってるだろ」

 一樹はぐっと黙る。その通りであった。ただ、一樹は秀を帯広に近づけたくないだけである。一樹は深い溜息を吐いて秀の頭を殴った。殴ったといっても、軽くではあるが。

「せめて、俺がいる時にしろ」
「何だ、一樹も帯広に会いたかったのか」
「ちげーよ!」

 ぎゃあぎゃあと一樹が騒ぎ、秀がそれに返事をする。そんな感じで二人は去って行った。一人残された眞子は、ずれた眼鏡のまま呆然と立っていた。

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