▼ 13
一樹は放課後になると、さっさと自分の教室を後にする。そんな一樹を遠巻きに見て頬を染める女子たち。一樹はその視線にまったく気づいていなかった。たとえ気づいていたとしても、一樹にとってはどうでもいいことだった。
「あ、一樹」
秀の教室へ行くと、丁度いいタイミングで秀が出てきた。一瞬目を丸くする秀だったが、すぐにへらりと笑う。
「何だよ」
一樹は自分に何かおかしなところがあるのではと不安になった。秀は笑ったまま、思ったことをそのまま伝える。
「なんか、久しぶりに会ったような気がして」
「…い、一日一緒に食わなかっただけだろ」
一樹は動揺しながら答えた。秀の言葉に心を乱されたのもあるが、一樹も同じようなことを思っていたからだ。
「やっぱり一樹の隣が落ち着くな」
「ふ、ふーん。そう」
一樹は平静を装って素っ気ない返事をする。
「ま、俺もお前の隣が一番だけど」
続けて言った言葉は少し早口になってしまった。少ししても返事がないことを不審に思った一樹は周りを見回す。秀は、少し離れた場所でしゃがみこんでいた。
「おい!」
一樹は口を引き攣らせながら秀に近付いた。
「何してんだよ」
「ダンゴムシ」
「……よく見つけたな、お前」
小さく丸まっているダンゴムシがいた。一樹は深い溜息を吐いて、呆れたように言った。
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