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 一樹は放課後になると、さっさと自分の教室を後にする。そんな一樹を遠巻きに見て頬を染める女子たち。一樹はその視線にまったく気づいていなかった。たとえ気づいていたとしても、一樹にとってはどうでもいいことだった。

「あ、一樹」

 秀の教室へ行くと、丁度いいタイミングで秀が出てきた。一瞬目を丸くする秀だったが、すぐにへらりと笑う。

「何だよ」

 一樹は自分に何かおかしなところがあるのではと不安になった。秀は笑ったまま、思ったことをそのまま伝える。

「なんか、久しぶりに会ったような気がして」
「…い、一日一緒に食わなかっただけだろ」

 一樹は動揺しながら答えた。秀の言葉に心を乱されたのもあるが、一樹も同じようなことを思っていたからだ。

「やっぱり一樹の隣が落ち着くな」
「ふ、ふーん。そう」

 一樹は平静を装って素っ気ない返事をする。

「ま、俺もお前の隣が一番だけど」

 続けて言った言葉は少し早口になってしまった。少ししても返事がないことを不審に思った一樹は周りを見回す。秀は、少し離れた場所でしゃがみこんでいた。

「おい!」

 一樹は口を引き攣らせながら秀に近付いた。

「何してんだよ」
「ダンゴムシ」
「……よく見つけたな、お前」

 小さく丸まっているダンゴムシがいた。一樹は深い溜息を吐いて、呆れたように言った。

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