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 数秒経って、恭一ははっと我に返った。

「……いや、待って!? 何故そんなところに!?」
「友達がいるから。それに気持ちいいし」
「ちょ、え? それ危ない人じゃない? 大丈夫?」

 立ち入り禁止の場所にいる人なんて、確実に真面目な一般生徒ではない。恭一の頭の中にぱっと一人の男の顔が浮かんだ。この学校の生徒ならば知らない人はいないというほど有名な不良――帯広だった。

「あ、あのぉ。しゅーちゃん? そのお友達の名前はなんと?」

 恐る恐る訊ねると、秀は少し声を潜めて、帯広の名を口にした。か細い悲鳴を出しながら恭一は頭を抱えた。

「ま、まさかしゅーちゃんがあの帯広までを手懐けるなんて…!」
「手懐けるって……」
「一体どんな方法を!?」
「いや、普通にしてただけだよ。特に何もしてない」

 秀は笑って首を振る。恭一は気づいた。何もしてないから。普通にしていたからこそ、帯広は秀をことを気に入ったのだと。普通は帯広と遭遇したら我関せずといった様子でその場から去ったり、悲鳴を上げたり、兎に角気持ちの良いものではない。

「何か酷いことされてるわけじゃないんだよな?」
「もちろん」
「ならいいや。俺が口出しすることでもないしね」

 ……俺はね、と恭一は心の中で付け足した。秀の保護者――つまり一樹は、大変であろう。頑張れ、と恭一は一樹にエールを送った。

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