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 教室を出た秀は、迷いのない足で廊下を進んでいく。階段を上がり、屋上を目指す。重々しい屋上のドア。屋上な立ち入り禁止のため、普段はしっかり施錠されている。つまり、今も施錠されているはずである。しかし、秀はそっと南京錠を掴んだ。南京錠は少し力を入れただけで簡単に外れてしまった。秀はそれで確信する。中にとある人物がいることを。
 ぎい、と錆びたような音を鳴らしてドアが開く。

「お」

 声が秀の耳に届く。屋上のど真ん中で寝転がったままの男が秀を視界に入れた。金色の髪で、耳にピアスをつけたいかにも素行の悪そうな男である。

「神埼」
「やっぱりここにいたんだな、帯広」
「まーな。今日はお前の保護者は一緒じゃねえみたいだな」

 秀の後ろを確認した帯広はにいっと笑う。秀は一樹は保護者ではないと否定するが、帯広は無視した。いつも秀の側にいて、自分が秀と関わるのを良しとしていない邪魔者がいないため、帯広は機嫌が良さそうに手招きした。

「横に来いよ」
「ああ」

 秀は帯広に近寄る。そして座り込むと、空を見上げた。眩しそうに目を細める。

「今日もいい天気だな」
「だろ。こういう日はやっぱ、屋上だよなぁ」

 帯広も気持ち良さそうだ。秀はこのゆったりとした空間が心地よくて、今日のような天気のいい日は、よくここへ足を運ぶ。

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