5

 翌日、一樹は目を丸くした。チャイムが鳴り、出てみれば家の前に秀が立っていたからである。いつもであれば一樹が迎えに行くというのに、一体何故と不思議になる。

「おはよう」
「お、おう…」

 戸惑いながら返事をして、一樹は訊ねる。

「どうしたんだ?」
「今日一樹と昼飯食べないから、朝飯一緒に食べようかと思って」
「え、俺もう食ったけど…」
「俺は食べてない」

 秀はごそごそと鞄を漁って、パンを取り出す。少し潰れていた。一樹は秀の言葉と行動に憂鬱だった気持ちが晴れていくのを感じた。昨日秀は俺がいないとだめだと言ったが、あれは俺の方だと一樹は思う。

「じゃあ家入るか?」
「いや、大丈夫」

 秀は玄関先で袋を開けると、その場で食べ始めた。一樹は呆れた顔をしながらも、二人で食べているということに嬉しく思っている。

「……ありがとな」
「む?」

 一樹は小さく礼を言う。口にしたまま秀が目を瞬いた。単に聞こえていないのか、言われた意味が分からないのか。一樹はそれ以上何も言わず、笑みを浮かべた。
 暫く秀が食べ終わるのを待って、二人は学校へ向かった。

[ prev / next ]



[back]