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「ちょっと、しゅーちゃぁん」

 恭一が情けない顔をして秀の後を追う。静かに自分の席に座った秀は、ちらりと隣を見た。

「おお…」
「あ、おはよう。神崎くん」

 シルバーフレームの眼鏡をかけた、黒髪の真面目そうな女生徒――篠原眞子は手を止めて秀に顔を向けた。彼女はこのクラスの学級委員長だ。手に持っているのはボタンとシャツ。ボタンが外れたのだろう。

「篠原、いいお嫁さんになるな」
「へっ?」
「俺もボタンが外れた時は篠原に頼もうかな」

 笑みを浮かべ、眞子を褒める秀。整った顔で笑いながら突然そんなことを言われた眞子は顔を赤くして目を丸くした。そこに慌てて入ってくる人物、恭一。

「ちょ!? しゅーちゃんまたそんなこと言って! 今までどんだけ勘違いした子がいると思ってんの!?」
「そんなことって、俺は普通のことしか言ってないぞ」
「自覚してくれ! 頼むから!」

 無自覚に人を口説くこの男に泣かされた女の子は何人いるだろうかと恭一は頭を抱えた。

「…いや、というか、これくらい普通だよ」

 やりとりを見ていた眞子が苦笑する。秀はすかさずそんなことはないと答える。

「俺、不器用だからそういうのできないし、凄いと思う」
「神崎くん…、ありがとう」

 キラキラなオーラを身に纏って微笑む秀と照れ臭そうに笑う眞子。そして恭一はがっくりと肩を落として溜息を吐いた。

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