気ままな猫の飼い主は

総愛/男前な不思議系主人公受け/天然タラシ/三人称視点












「……お前、何してんの?」

 とある日の朝。学校へ向かうため家を出た一樹は隣の家の前でしゃがみこんでいる幼馴染みを呆れた顔で見た。幼馴染みである秀は視線を下に向けたままだ。

「今集中してるから話しかけてこないでくれ」
「何に集中してんだよ…」

 溜息を吐くと、一樹は秀に近づく。後ろから覗き込んでみると、蟻が行列を作っていた。虫があまり好きではない一樹はうえ、と顔を顰める。

「なんだ、蟻かよ」
「なんだって。お前蟻の素晴らしさを知らないな?」
「知りたくもないわ。いや、つーかそれより遅刻するぞ」
「一日くらい遅刻しても許してくれる」
「先生は蟻の観察で遅刻なんて許してくれないし、そもそも一日どころか何回も遅刻しといて何を言ってるんだ」

 そう言うと、秀は顔を上げた。そして目を丸くすると、目を細めて笑う。

「おお、一樹じゃないか。おはよう、何してるんだ?」
「一樹じゃないか、じゃねーわ! 気付いてなかったんかい!」

 秀は何を言っているのやら、という様子で首を傾げる。朝から疲れる、と一樹は頭を押さえた。はっとして、秀の腕を掴む。

「もういいだろ? 行くぞ」
「ええー…」

 秀は不満そうに言うが、渋々立ち上がると、鞄を肩にかけた。

「それで、何で蟻を見てたんだ?」

 一樹が気になったことを聞くと、秀はにっこりと笑った。

「そこにいたから」








 学校へ着くと、教室の前で秀は一樹と別れた。クラスが違うのだ。教室に入ると、秀のクラスメイトである小林恭一が飛んでやってくる。

「しゅーちゃん! おはよー!」
「小林、おはよ」
「また今日も遅刻するかと思ったよ」

 へらへらと笑う恭一に、秀は不思議そうな顔をする。

「また今日もって、俺そんなに遅刻してないと思うけど」
「…いやしてるでしょ! 昨日でしょ、一昨日でしょ、そんで…」

 指を折って数える恭一は、あれ、毎日じゃないか? と片眉を器用に上げるが、秀は興味なさげに頷いて、自分の席へと向かう。


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