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「じゃ、呼んだら入って来いな」

 今の髪型がこんな感じだから、受け入れて貰えるか非常に心配だ。いや、元々不良だからそういう反応は慣れてんだけど、前の学校はこう言っちゃ失礼だがガリ勉みたいな容姿の奴とも普通に仲良くしていた。蓮たちだって無闇矢鱈に暴力を振るうこともカツゲすることもない、ちょっと血の気が多い良い奴らだ。
 あいつらとの付き合い、というか前に住んでいた場所は今までで一番長かったから、この感覚を忘れてしまっていたようだ。今更思い出したように緊張で顔が強張る。ばくばくと体の中で何か凶暴な生き物が暴れているような感覚さえ覚えるような心臓の脈。
 落ち着け、らしくないぞ、俺。

「ぉ、おう…」

 …やべ、情けない声が出た。目の前の強面がにんまりとした表情になり、顔を引き攣らせる。

「なんだぁ、緊張してんのか? 可愛い奴め」
「っイテェ! やめろ!」

 肩をバシバシ叩かれて、痛みに顔を歪める。しかし凄みのある雰囲気を潜めて豪快に笑う東山は手を休めてはくれなかった。
 暫し同じ箇所を叩かれていた俺は、やっとのことで解放され、溜息を吐いた。

「よし、じゃあまた後でな」

 悪戯が成功したような子どもっぽい笑みを浮かべるとドアを開けてそのまま入って行ってしまった。ぽかんとしていた俺は直ぐに気づく。あの煩いほどの心臓の鼓動が静まっていた。もしかして、それで肩を――? 羞恥に顔が赤くなる。
 パタパタと手で扇ぎ熱を冷ましていると、東山は俺の名を呼び、こっちを向いた。俺は一度頷き、足を進める。
 一瞬教室が冷水を浴びたように静まり、こそこそと近くの奴と何かを密めき合っている。それに顔を歪めていると、教卓まで辿り着いた。前を向く。皆関わりあいたくなさそうに視線を微妙にずらしている。想定内の範囲だ。
 しかし。例外が数人。興味津々といった様子で俺(厳密に言えば恐らく頭)を見ている奴らや、無表情に俺を眺めている奴、そして、鋭い眼光で睨むように見ている奴。――って、あいつ朝のリーゼントじゃねえか! 同い年でしかも同じクラスかよ!
 東山に学校名を告げられ、この先を促すようにちらりと視線が投げかけられる。

「えー、と。瀧口万里。……宜しく」
「ええ、それだけかぁ?」

 不満そうな声に、フッと笑って頷いた。
 ……ていうか、あのリーゼント、こっち凄ぇ見てね? 何故。俺はまだ朝シカトされたこと忘れてねぇぞ。

「ま、いいか。えーと、それで、お前の席はと」
「はーい、ここここ!」

 爽やかな男が手を上げる。ああ、あいつは確かリーゼントに話しかけてた奴か。

「ああ、更木の隣か。じゃあ瀧口、あそこな」
「おー…」

 俺の見間違いじゃなければそこはリーゼントの横でもあるような…。違うよな、そこはきっと欠席者だ。反対側だな、きっと。っていうか何でそんな中途半端な席なんだよ。一番後ろとかにしろよ。
 嫌な予感をひしひしと感じながら席に近づくと、すぐさま制される。

「あ、こっちだよ、席」

 指されているのは爽やか男とリーゼントの間の席。
 やっぱりそっちかよ!

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