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「……人間で、好きな奴はいねえのかよ?」

 カナメが落としたパンを拾って、何だかそわそわしながら訊いてくる。何を当たり前のことを、と思いながら口を開こうとした時。

「あ、恋愛的な意味でだぞ」

 「お前、アホだから違う意味で捉えそうだし、言っとく」カナメが呆れ顔で失礼なことを言ってくる。でも恋愛関係なく普通に好きな人を答えようとしていた俺は何も言えなかった。
 女子で、となると……いるわけないじゃないか。まず関わりがない。皆俺のこと怖がってるし。
 むっとすると、カナメたちは何故かにやりと笑う。

「まあそうだろうと思ったぜ」

 そう言うと、上機嫌な様子で廊下を歩いていく。ユウも無言で歩いていった。俺はそれを見ながら、あ、結局カナメたちの好きな奴が誰か訊いていないな、と首を傾げた。








 学校が終わり、たまり場に行くと仁がいた。よ、と手を挙げ俺に笑いかける。

「おい、なんでナチュラルにここにいるんだよ」
「いていいって話だっただろ」
「帰れ」
「なあ」

 俺は言い合う二人に声をかける。二人は同時にこっちを見た。

「仁って好きな奴いる?」
「は?」
「――おまっ、またその話かよ!」

 仁は目を丸くして俺を見る。その隣でカナメが眉を顰めた。だって気になるんだ。

「……まあ、いるな」
「え! どんな子なんだ?」

 カナメたちとは違い、あっさりと答えてくれた仁にわくわくと胸が踊る。にっこり笑う仁が俺の両手首を掴んだ。――ん?

「お前」
「んっ?」

 ……え?

「俺は直人のことが好きだ。恋愛感情でな」
「……お、俺?」

 目を見開いて仁を見る。嘘を言っているようには思えない。俺はぼっと顔を赤くする。告白されたのなんて初めてだ! 男だけど!

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