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 校門を通ると、視線が更に増した。その不躾な視線に苛々としながら歩いていくと、ふと三階の一つの窓が目に入る。そこにはさっきのあいつ――リーゼントがいた。何故かこっちをじっと見下ろしている。自然と眉が寄った。
 さっきはシカトしたくせに、と思いながら俺もじっとあいつを見る。先に目を逸らすのは何だか負けた気がするし。……ただ、ちょっと前方注意だけど。これで何かにぶつかってそれを見られたら恥じどころではない。
 気持ち速度を落としながら睨んでいると、不意にあいつが目を逸らした。しかしそれは一瞬のことで、直ぐに視線が戻ってくる。何だ何だと思っていると、誰かがあいつの傍に寄った。寄った爽やかな好青年っぽい男は何かを話している。それを見つめていたら、急に爽やかな男がこっちを向いた。俺はさっと目を逸らす。それからは俯き加減になって早足で校舎まで歩んだ。








 校内地図を広げて職員室に向かって歩くこと数分。着くことには着いたのだが、あまり良い思い出のない場所につい顔を歪めてしまう。そこで顔は整ってんのに一年中小豆色ジャージだった担任に、エロ本盗られたままだったことを思い出した。いつか奪い返しに行こう。つっても…あの担任、苦手だったんだよなぁ…。つうかウザい? 何故か問題を起こしてばかりの蓮たち以上に呼び出されてたぞ確か。
 まあ転校のことは悲しそうな顔になってたけど。意外に好かれてたのか、俺? そういえば結構菓子とかくれたしな。
 前学校の担任のことはいいや。とりあえず入ろう。ノック? 不良はそんなことしませんが何か。
 ガラリと開けると、コーヒーの匂いが漂う。どちらかというと甘い物が好きな俺はこの匂いを嗅いだだけで少し拒否感が出てしまう。そんなことを思いながらずかずか入っていくと、数人の教師が俺に気付き、こっちを見てぎょっとした。きっと資料と髪型が違うから驚いてるんだろう。…俺もまさかこんなことになるとは思ってなかったわ。

「え、ええと、瀧口万里くん…かな?」

 おいオッサン、顔を見て言え、それは。頷くと、職員室で色んな奴が顔を見合わせている。囁かれる会話に東山という名前が出た。もしかしてそれが担任の名前だろうか。
 しかし、どうやら職員室にいないらしい。早く出たい俺としてはどうしたものかと寂しくなった頭を撫でる。
 つーか、誰か探しにいってくれよ。それか呼び出せ、校内放送とかあんだろ。

「あぁ? 何やってんだ?」

 突然後ろで声がして、不覚にも体をびくりとさせてしまった。振り向くとスキンヘッドの極道の総長かと思うほど凶悪な顔をした長身の男。目の下の傷は一体何を物語っているのか…。

「あ、とっ、東山先生」

 えっ、こいつが?
 目を丸くして見上げると、東山という男は俺を見て首を傾げる。

「あ、あの、彼、瀧口万里くん、です」
「ん? お前が? あれ、写真とイメージ凄い違うんだけど。何、イメチェン?」

 そしてからからと笑う。笑うと意外に目尻が下がって人懐っこい顔になり、結構な好意印象を抱いた。

「イメチェンっつか、させられた」

 げんなりと言う。片眉を上げ、東山は不思議そうな声を出した。

「なんだ、嫌なのか? 似合ってると思うぞ俺は」
「それ喜んでいいのか微妙だな」
「喜んどけって」

 東山が笑って肩を叩いてくるので、俺は苦笑してどうも、と言った。

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