30

「み、見てんじゃねーよ!」

 カナメは眉を顰めて声を上げたけど、俺は無視して見続けた。チッと舌打ちの音が聞こえたかと思ったら、ビニール袋に手が突っ込まれた。ガサガサと音が鳴る。

「…ほら、これ。やるよ」

 ぼそっと呟かれた後に勢いよくなにかが差し出される。チョコの中にアーモンドが入っているあれだ。俺はぱっと顔を上げる。

「俺に?」
「し、仕方ねえから、お前の分も買ってきただけだ。別にお前のために買ってきたわけじゃねえから」

 別にそんなこと言わなくても分かってるのになあ、と思いながらへらっと笑う。その瞬間、カナメの顔が赤に染まった。カナメは、何故か俺が笑うとこういう反応をするのだ。……いや、カナメだけじゃない。周りにも、似たような反応をしている奴が何人かいる。何でだ? 怒っているわけじゃなさそうだし…っていうことは照れてる? それだったらカナメは分かるけど、他のやつらが赤くなる理由が分からない。

「ありがと」
「……おう」

 カナメが眉を下げて、苦笑するように笑う。ハヤトからは頭を撫でられた。
 なんかこうやってお菓子を貰ったり撫でられたり、子ども扱いされてるような気がするけど、俺は今、楽しい。









「……ええ?」

 仁に会いたいと言うと、ここへ呼べと言われた。だから俺は久しぶりに仁に連絡をとった。仁は溜まり場に俺しかいないと思っていたらしく、ドアを開けた瞬間目を丸くした。

「…直人、こりゃあどういうことだ?」
「いやあ……なんか、よく分からないんだけど…」
「おい、それ以上近づくな」

 はは、と苦笑する俺に一歩近づくと、カナメが目を細めて仁を睨んだ。

[ prev / next ]



[back]