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 カナメたちに見張られるようになってから早一週間。もうカナメが隣にいるのに慣れた頃。チームの皆は最初は俺が喋る度に戸惑ったり驚いたりと様々な反応を見せたけど、流石に一週間経つと慣れたのか普通になった。
 しかし、普通といっても、前とは違う。

「ナオ、これ食べねえ?」
「お前、これ苦いやつじゃん。総長は甘いやつの方がいいだろ」

 今まで喋りかけてすらこなかった頭がカラフルな男たち。へらへらと笑いかけられながら、差し出されたものを見る。某メーカーのチョコレートだった。最近、こういう風に話しかけられたり何かを貰ったりする。今まで有り得なかったことだ。っていうか、チョコうまそう。俺は両方貰おうと思って手を――。

「おい、何勝手に餌付けしてんの?」

 ひやっと背筋が寒くなる。恐る恐る振り返ると、笑顔のハヤトが立っていた。笑っているけど、目が笑っていない。ハヤトの視線は俺じゃなくて、二人に向いている。
 ……って、ん? 今、何か変な単語が聞こえたような?

「い、いや、俺たちは…」
「その……」
「これは俺が没収。お前らあっち行っとけ」
「え? は、はい!」

 俺が目を瞬いている内に、二人はばたばたと去って行ってしまった。そして、ハヤトが残る。……チョコ横取りされた。しょんぼりと眉を下げる。しかしその時、俺の差し出されたままだった手を掴まれ、何かを乗せられる。それを見て、俺は目を見開くと顔を上げた。ハヤトはにいっと笑っている。

「ということで、はい、チョコ」
「……え、い、いいの?」
「勿論」
「――って、お前も餌付けしてんじゃねえか!」

 「うわ、来た」ハヤトが目を細めて呟く。カナメがぜえぜえと肩で息を切らしながらハヤトを睨みつける。確かカナメは近くのコンビニまで買い物に行っていたはずだ。今帰って来たのだろうか。

「そういうお前だって、それ、ナオのじゃねーの?」
「う……いや、こ、これは」

 カナメがしどろもどろに言葉を発する。俺はビニール袋をじいっと見た。

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