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(side:???)








「おはよー」

 教室のドアを開けて挨拶をしたが、返事がない。それどころか空気が冷たいし、皆俯いたり何かを気にするようにそわそわとしている。俺は首を傾げたが、直ぐに理由が分かり、ああ、と頷いた。
 教室の一角。隔離されているようなその場所に座っている人物は有名な不良。目を見張るほどの顔の良さや喧嘩の強さもあるが、遠目からでも分かる髪型をしているのだ。
 その人物こそ大石巽。今時まだリーゼントにする奴がいるのかと始めに見たときは驚いた。最近めっきり教室に来ていなかったので姿を見るのは久しぶりだ。今学期に入ってから一ヶ月間、一度来たくらいか? もしかしたら登校くらいはしていたかもしれない。それからサボっていたとか。
 俺は朝の教室とは思えない静かな空間を横切って自分の席まで歩いていくと、鞄を置いた。鞄に手を乗せたまま大石巽の方を向く。
 大石巽は頬杖を付いてぼおっと窓の外を見ていた。珍しい。何か気になるものでもあるのだろうか? 何となく興味が引かれた俺は、この居心地の悪い空間を早く取り除きたいという気持ちもあって、大石巽に近づいた。
 俺が近づいてくるのに気付いたのか、こちらを向いた。そして直ぐに興味を失ったように視線を再び窓の外に戻す。

「おはよう」

 声をかけたが、反応はなし。

「なあ。おはよう」
「……ッチ」

 リーゼントの下で眉間に皺が寄ったのがちらりと見えた。大石巽は何だよと言いたげな表情で再び俺の方に向くと、鋭い目で睨んだ。
 クラスの奴らは怖いようだが、俺は大石巽が直ぐにキレるような不良ではないということを一年前から知っているのでそのまま話を続けた。

「何か窓の外に面白い物でもあんの?」
「……別に」
 
 一瞬頬杖を付いている手がピクリと動く。別に、っていう様子でもないみたいだ。

「ふーん?」

 そう言いながら俺は窓を見た。いつもと何ら変わりのない――ん?
 俺はあまりの驚きに口を開けて窓の外を凝視した。
 モヒカンだ。モヒカンが校門のところを歩いている。

「なあ、あれ」

 窓に一歩近づいて大石巽に話しかけたが、勿論返事はない。別に俺も求めているわけではないのでそれはどうでもいい。
 あれは、――誰だ? この学校にモヒカンなんていなかった筈だ。いたら絶対目立つだろう。しかも、赤髪なら尚更だ。劇的ビフォーアフターって奴か? いや、でも…なあ。
 もしかして、大石巽はあの男を見ていたのだろうか? 自分と同じような奴だから親近感湧いた、とか。――性格的にないか。
 俺は大石巽を一瞥し、あのモヒカンはどんな奴なんだろうかと考えながら、自分の席に戻った。

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