20

 仁の名前に室内の空気がピリピリとする。俺から話せって言われても、こればっかりは言いにくい。俺はカナメを縋るように見る。カナメは俺と目が合うと、ぎくりと身を固くさせる。意思の強い瞳が一瞬だけ揺らめくと、はっとしたように目を逸らされた。何だ…? と首を傾げるが、カナメを凝視しても何も分からないし、カナメは俺と視線を合わせようとしない。

「こいつは俺たちに隠れてジンと会ってたんだよ」

 カナメが吐き捨てるように言った瞬間。ハヤトたちが、はあ? と上擦った声で聞き返した。

「しかも仲良さげにな!」
「はああ?」

 むっすりとしたままのカナメの声。再び上擦った声が続く。俺は責めるような視線に俯く。
 確かに。確かに敵の総長と仮にも総長の身である俺が仲良くするのは歓迎できないだろうけど、――でも、そんなにいけないことなのか。
 気がつけば俺は唇を噛んでいた。悔しかった。俺のことなんて全く気にしてないくせに、俺の交遊関係には口だしてくる。

「おっ、俺は……」

 声が震える。怒りからなのか、緊張からなのか。きっと、どっちもだろう。

「俺は仁の友達だ! 誰がなんと言おうと友達を止めないし、仁と友達であることを悪いとは思わない!」

 バンと机を叩いて立ち上がり、俺は主張する。言い終わって静まり返る室内。視線の刺々しさはなくなり、代わりに皆目を丸くして驚いていた。

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