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(side:直人)

 会話もないまま歩き続ける俺とカナメ。俺が逃げ出すとでも思っているのか、時々様子を窺うようにこっちを見てくる。そして何も言わないまま視線を外すのだ。別に逃げないのに。っていうか逃げても確実に捕まるし。その後のことを考えても今は大人しくしているしかない。
 そして「いよいよ到着した溜まり場。俺の心の準備が整わない内にカナメがドアを勢いよく開く。どきんと心臓が跳ねあがった。

「…あ? 誰もいねえのか…」

 カナメの呟きが聞こえる。誰もいないのか、良かった。ほっとしていると、カナメが中に入っていく。急かされないように俺も中に入る。がちゃん、という音が響く。しんとした室内。散らかっていないことに安心する。
 カナメがソファに座る。いつも座っているソファだ。俺は立っていた方がいいのかなと思ってそのまま棒立ちしていると、苛立ったように座れと言われた。いや座れって、どこに。どのソファ。
 俺は迷って、できるだけ遠い場所にいたいと思って奥のソファに座る。俺の定位置だ。

「おい! なんでそこだよ! 遠いだろーが!」
「えっ」
「前に座れ! 前!」

 俺はカナメも嫌だろうと思って離れたんだけど…どうやら向かいに座っていいらしい。俺、このソファ初めて座るな。いや、初めてというのは語弊がある。誰かがいるときに座るのが、初めてだ。何だか落ち着かなくてそわそわしていると前方から穴が開くほど見られ、余計にどうしたらいいか分からなくなる。やっぱり来なければよかったか? でもそしたら――。

「おい、黙ってねえで、話せよ」

 カナメが舌打ちをする。話せ、と言われても。



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