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「いってらっしゃーい」
笑顔の母親に見送られ、俺はげんなりしながら家を出た。というより、目が笑っていない笑顔を浮かべている母親に追い出されたと言った方が正しいな。母親は怒らせたら物凄く怖い。だからマジ切れする前にさっさと行ってしまった方が身の為だ。まあ、学校っつっても、サボればいい話だしな! 初日からサボるのはどうかと思うが、俺が教室に居座っていた方が周りも迷惑だろう。俺は開き直って一度頷いた。
逃げ道を確保した俺は幾分すっきりしながら歩道を歩く。周囲からは不躾な視線や囁かれる会話が投げかけられた。俺は好きでこんな髪にしたんじゃないと叫んでしまいたい。そんなことを言っても意味がないので止めておくが。
とりあえず睨むだけしておこう。そう思い、ぐっと眉間に力を入れて周りを見渡す。こっちを見ていた顔が一斉に明後日の方向に向いた。
「……あー、だる」
一気にテンションが落ちた俺は速度を落としながらポケットに手を突っ込み欠伸をした。欠伸をして歪んだ顔と涙はそのままに、視界に映ったものを見て固まる。
……り、リーゼント…!?
口をあんぐりと開けながら男を凝視する。すると、視線に気付いたのか、急にこっちを向いて視線がかち合う。俺はリーゼントという、明らかに周りと違う部類に親近感を覚えて思わずにへらと笑う。じいっと俺を――いや、俺の顔と頭を交互に見ること数秒。男は無言で俺から視線を外すと去って行った。
「え、お、おい」
俺の声に反応する素振りもない。
…おい、シカトかよ。感じ悪ぃな。
つーかあいつ、凄い美形だったような…。俺は先程の顔を浮かべて苦笑した。きりっとして男前な顔つきだったが、リーゼントで何割か損してる感じがする。充分モテるだろうけどな。…いや、モテるか? 俺が女だったらリーゼントにする奴とは付き合いたくないな。
ってかあいつのあれは自分自身の意思でやったんだろうか? …かもしれないな。何かクールな奴だったし。
「…あ、あいつの制服ってこれから行くとこじゃねえか」
ポツリと呟くと、横をこそこそ通り過ぎようとした同じ制服の奴がびくりと震えた。いやいや、お前じゃねえから。一応声を掛けようと思ったが、陸上選手になれるんじゃないかと思うほどのスピードで走り去っていった。…えーと、うん、なんかすまん。
でも、俺一人じゃないって分かったら何か吹っ切れたわ。ふわあ、ともう一度欠伸をして、にやりと笑った。
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