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 スマホに送られてきた案内のとおり進むと、お世辞にもあまり綺麗とは言えない外観のアパートが見えてきた。そのアパートの前に立っている人物が顔を上げる。

「おう、ナオ」

 ジンは軽く右手を挙げる。バックにはジンの格好いい容姿とは正反対のオンボロアパート…まさかここがジンの家!?

「…なんだその顔?」
「えっ…別になんでもないけど?!」
「お前声に出したら分かりやす過ぎだろ…」

 ほら、こっちだと俺の腕を掴んで歩きだす。何で腕を掴むんだ? 俺はこんな短い距離で迷子になったりしないぞ! ちっちゃい子どもかよ! ばかにするな!
 ぷんすかと怒ってますアピールをするが、気づいてもらえないままアパートまで引っ張られる。
 今にも壊れそうな階段を恐々とのぼる俺とは違って、ジンはまったく気にした素振りなくとんとんとのぼっていく。ギイギイと不安を煽る音が響いて、俺はヒイヒイ言っていた。前を歩くジンが肩を震わせているがもしかして俺を笑っているんじゃなかろうな。
 階段が終わっても、ギイギイという音は鳴り止まない。…俺帰っちゃだめかな。怖いんだけど。

「ここだ」

 ジンがひとつの部屋の前でぴたりと立ち止まる。表札には高原と書いてある。高原っていうのか。
 そういえば俺はジンの名前を知らない。もちろん向こうもそうだし、俺のチームの皆もそうだろう。チームのやつらは俺の本名なんかまったく興味ないだろうな。
 今度、高原と呼んでみよう。あと、名前も訊こう。
 ジンがガチャリとドアを開ける。

「あ、えーと…家族の人とか…」
「今出掛けてる」

 肩の力を抜く。こういうの、慣れてないから緊張するんだよな。

「ほら、入った入った」

 ジンが俺の背中を押す。俺は促されるまま部屋に足を踏み入れた。

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