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「早く総長辞めてくんねえかなあ」

 言い終わってからこっちに視線を遣る特講隊長のハヤト。その周りで同意するように頷く奴ら。俺はそれを無言で聞いていた。手に爪を立てることで泣くのを抑える。最近は皆の暴言にも慣れてきたからか、最初に比べて手に残る爪の痕が減った。
 流石に俺が総長という立場だからか、暴力は振るわれたことはないけど、俺は声を大にして言いたい。言葉の暴力も止めてくれたと……!
 まあ、それでも今俺を支えてくれている存在がいるのだ! そう! ジン! あいつと連絡先を交換して連絡を取り合っているのだ。敵だってことは分かってる。駄目だってことも。でも久しぶりにできた友達。何年ぶりだろう…俺、学校でも一匹狼扱いされてるからな…。何でか総長ってことバレてるし。俺は悲しいよ…。
 皆の暴言を耳にしながら遠い目をしていると、ポケットが震えた。あ! と思って素早くスマホを取り出すと、皆はちょっと驚いたような顔でこっちを見てきた気がする。
でも俺は周りを気にしている余裕はなかった。じっとスマホを見つめる。ジンだ。

『今暇?』

 ……う。俺はがっくりと肩を落とす。もしかして遊びの誘い? 行きたい! けど……俺が抜けたらもっと皆の目がきつくなるからなあ。俺は残念な気持ちで『今溜まり場なう。暴言の嵐なう』と返した。最近なうブームだ。俺の中で。

「総長、もしかして彼女とかあ?」
「あいつに女なんてできるわけねーだろ」

 顔を上げると、ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべた皆が俺を見ていた。……いや、相手男だし。でも彼女…みたいに大切な存在ではある。うわ、ちょっと恥ずかしい。まだ知り合ったばかりなのにもうこんなに好きになってるなんて。
 俺は目を逸らした。顔が熱いけど……大丈夫かな。赤くなってないといいけど。

「……は、まじで?」

 ぼそりと呟かれた言葉は小さく、俺の耳には入ってこなかった。今呟いたのは、さっきあいつに女なんて、と言った副総長のカナメ。ガチヤンキーで短気で怖い奴。俺が一番恐れているのがカナメだ。どうせ呟いたのも暴言だろうと思って、俺はスマホを見つめる。返信まだかな、と思っていると、手の中のそれが再び震えた。

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