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 映画館を出てからやたらと機嫌の良い城野。調子に乗って手を繋ぎたいとか言い出したけど無視した。流石に周りの目がある時にそんなことできないっての!

「そろそろ帰るかな」

 気がつけばもうすぐ午後六時だった。夕飯を要らないと言って来ていないので、帰らなければならない時間だ。俺は無言で頷いた。

「お前ん家こっからどれくらい?」
「えーと、歩いて十五分くらいっすかね」
「歩きか」

 城野はするりと俺の手を取った――ので、べしっと叩き落とした。

「何すんだよ」
「何すんだよはこっちの台詞なんですけど! 何ナチュラルに繋ごうとしてんすか!?」
「そりゃ繋ぎたかったから」
「時と場所と場合を考えてください! TPO! ティーピーオ―!」

 全力で繋ぐのを拒否すると、城野はチッと舌打ちした。前々から分かってたことだけど、この人周りを全然気にしないな。……ばれてもいいんだろうか。勝手に生徒会の人にばらさないか不安だ。

「で、お前の家はどっちだ」
「え、あっちですけど…」

 家の方向を指差すと、城野はそっちへ歩き出す。…え、城野の家同じ方向なの? そんなことを思いながら俺も隣を歩く。道が分かれているたびに俺の家の方向を訊いてくるため、俺は送ってくれているんだと漸く気がついた。女の子じゃあるまいしと思ったが、まあ、もうちょっとだけ一緒にいたかったし、送らせてやろうと思って何も言わなかった。
 俺の家の前まで来ると、城野は名残惜し気に俺を見て、踵を返そうとした。俺は慌てて腕を掴む。

「……どうした?」
「あ、と…その」

 城野は不思議そうに俺を見下ろす。周囲を素早く確認する。誰もいない。ごくりと唾を飲み込んで、俺は口にした。

「俺も……好きです」

 そうして背伸びをして、俺は城野の薄い唇にそっと口づけた。










fin.


森 敦(もり あつし)

二年。
書記。
チャラ男だけど、真面目。

城野 誠二(きの せいじ)

三年。
会長。
俺様暴君野郎。
気持ちを認めてから森には優しい。

月島 稔(つきしま みのる)

三年。
副会長。
地味な眼鏡。優しいので地味に人気がある。

川町 陽菜(かわまち ひな)

一年。
会計。
ギャルだけど真面目。

佐代 かな(さよ かな)

二年。
会計。
可愛くて優しい女の子。


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