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 結局、観たのは例の映画だった。俺はエンドロールが終わり、明るくなっても席を立たずにティッシュで鼻を噛んでいた。

「泣きすぎだろ」

 呆れたように笑う城野。だって、仕方ないだろ。感動したんだ。原作を読んだ時も感動したけど、やっぱり感情が籠っている分、感動は大きかった。今人気のあの俳優、なめてたわ。すごく良かった。
 ……なのに。俺はちらりと城野を見る。けろりとしていて、まったく泣いた形跡のない顔。確かに城野が泣く姿なんて想像できないけどさあ…。

「そんなに感動するもんだったか?」
「するもんです! 放映中も鼻啜る音結構聞こえてたし!」
「ふーん、そうか」

 ふーん、そうかって。俺はじろりと城野を睨む。

「いや、普通に面白かったけどな。俺はこういうの泣かないタイプだし」

 俺が睨んだからか、慌てて口にする。俺はむすっとしたままちーんと鼻を噛んだ。

「つーか、その顔であんまこっち見るんじゃねえ」
「え…」
「キスしたくなんだろ」

 俺たち以外いなくなった映画館の一室。しーんと静まり返る。緊張と恥ずかしさでドキドキと心臓が煩く鳴る。意を決して口を開く――前に、城野が笑った。

「なんてな」
「……すっ、すれば、いいじゃん」
「……、…は?」

 城野は目を見開いて俺を見る。顔を逸らしたかったが、俺は羞恥を抑えて城野をじっと見つめた。

「…え、いや、でも関係解消…」

 こんなに動揺している城野は初めてかもしれない。最初の俺様暴君野郎とは全然違う。俺は思わず笑った。


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