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「おっと、忘れてた」

 思い出したようにサングラスと帽子を被る城野。だからそれ目立つんだって、と思ったが言わなかった。サングラスかけているなら俺のこの顔が見られずに済む。慣れるとは言っても、慣れるまで時間がかかるだろうから、その頃には熱が冷めていると思う。

「さて、どうするかな」
「……決めてないんですか?」
「街には色々あるからな」

 ……つまりノープランってことだな。何があるかなーと思考を巡らせていると、視界に入ったのはビルの側面についている大画面。それに丁度流れていたCM。

「あ」
「ん、何だ?」
「映画…とか。えっと、俺、観たい映画があって」
「映画か、いいな」

 城野は俺から視線を外す。大画面から城野に目を向けると、今度は城野が大画面を見ていた。まだ先程の映画のCMが流れていた。

「あー、結構テレビで流れてる奴だな、あれ。有名な俳優が出てるとかって」

 そう、青春もので、最近色々な番組に引っ張りだこの俳優が出ている映画だ。その俳優が出ているというのは別にどうでもいいけど、原作の小説が好きなのだ。城野を見るとあまり興味なさそうだったので、どうせなら二人とも楽しめるものがいい。

「えっとお、城野先輩って何か観たい映画とか、ないんすか?」
「今はねえなあ…。お前が観たいなら、俺はあれでいいぞ」
「ほ、ほんと?」
「嘘吐く必要ねえだろ。ほら、行こうぜ」

 城野がいいと言うなら、いいか。城野は面白そうに笑って、歩き出す。ここから映画館までそこまで距離はない。俺もわくわくしながら後に続いた。


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