26

「あの人たち格好良くない?」
「思った! 声かけてみる?」

 俺ははっとする。ここにずっといるのは良くないな。兎に角移動しようと思ったが、目的地が俺には分からない。

「あの、今日はどこへ?」
「とりあえず飯だな。何食べたい?」

 確かにそうだ。思い出したように腹が空腹を訴えかけてくる。この時間だと混んでそうだけど、どうしようか。俺は辺りを見回した。そんなに遠くないところにファミレスがあったので、俺はファミレスを指差した。

「あそことか」
「んじゃ行くか」

 え、いいの? いや、反対してほしいわけじゃないけど……。城野は何か意見ないのかな。と思ったが、別にそんなに重要なことでもないし、俺は口を閉ざした。

「お前はそういう服を好むのか?」

 歩き始めた城野が俺の方を向いて言った。視線はサングラスで隠れて良く見えない。

「え? あー、まあ。だいたいこんな感じっす」
「想像通りだな」

 ふ、と笑われ俺はむっとする。ぽん、と俺の頭に手が乗った。一瞬だけ重くなった頭はすぐにいつも通りになる。同時に微かな体温も離れて行った。

「似合ってる」
「……そりゃま、俺だし」
「え、俺も似合ってるって?」
「耳鼻科行け」

 「お前はボケじゃなくてツッコミだな」意味の分からないことを言っている城野は隣でうんうんと頷いている。
 俺は呆れた目で見つめながら、ファミレスに向かって足を動かす。ドアの前まで行くと、俺は手を伸ばす。ドアノブに届く前に、ドアがひとりでに開いた。――いや、ひとりでに、じゃない。隣の男がドアノブを握っていた。

「ほら、入れよ」

 女の子じゃないんだから、と少しだけ呆れる。まあ遠慮なく入らせてもらったけど。

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