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「ええっ? いるの?」

 目を見開いて俺を見上げる女の子。え、いるの? って失礼だなあ。まあ気持ちは分かるけど。っていうか好きな子いるって嘘だけど。でも面倒だから否定しないでおこう。

「いるよー」
「誰誰!?」

 あっ。こっちも面倒だった! なんで女の子って人の好きな人を知りたがるのかな?

「森くん!」

 俺はにっこりと微笑んで、小さく首を傾げる。
 
「……内緒」

 かあっと女の子たちの顔が赤くなる。俺はにこにこと笑みを浮かべたまま自分の席へ戻る。座ると、先程失っていた食欲が思い出したように出て来る。小腹が空いた時のためのお菓子を鞄から取って机に置く。

「あれ、昼飯食べてきたんだよな?」
「あーうん」

 いつも一緒にご飯を食べているクラスメイトの鈴木が近づいてくる。お菓子を見て不思議そうな顔をした。いつも食後にお菓子を食べないからだろう。

「えーと、あの、会長の…人とだったっけ」
「うん。城野先輩」
「仲良いの?」
「ん? うーん…」

 答えにくい質問だ。仲が良いか悪いかで言ったら、まあ、良い方だと思うけど。でも仲が良いとも違う。

「まあまあ」
「え、でもその人が誰かと食べるのって珍しいらしいじゃん? 俺も聞いた話だから詳しくは知らないけど。でも、そうなんだったら結構仲良いんじゃない?」

 え、あの人ぼっちなの?
 噴き出しそうになる。いやあ、でも、そうか。あの性格だもんな。人と関わるの好きそうじゃなさそうだし。……俺には関わってくるけど、ってその話はやめよう。
 俺はぺり、と袋を開ける。

「でも正直一緒に食べたくないなあ」
「何で?」
「目立つ。すげー目立つ」
「そりゃお前、格好いい奴が揃ってたら目立つよ」

 「あ、だからそんなに疲れてんの」……いや、そうだけど。それ以上に俺を疲れさせる声があったんだよ…とは言えず、俺は溜息を吐いた。

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