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 食欲がなくなり、げっそりとしたまま教室に戻る。魂が抜けかけた俺を迎えたのは、女の子の集団。乾いた心に潤いが戻ってきた。可愛い笑顔で俺を見上げる。

「城野先輩と一緒にご飯食べたってほんと!?」
「仲良かったんだあ! ねえねえ、紹介してくれない!?」

 情報はやっ! 俺は女の子繋がりと情報伝達の速さにちょっとだけ恐怖を抱いた。
 って、紹介……? その言葉にずきりと胸が痛む。何でか、なんて考えたくない。ああ、そうだ、女の子をあんな変態に紹介したらかわいそうだからだ、そうに決まってる。
 ――嫉妬か? 可愛い奴だな。
 はっとする。頭の中であいつの声が再生され、俺は自分の頭を殴りたくなった。
 違う。嫉妬なんかじゃない。そう否定しても、俺の顔はどんどん熱を持っていく。

「森くん?」
「あ、え、や……ごめん、城野先輩って好きな人がいるみたいでー」
「ええっ!? そうなの!?」
「嘘ぉ、狙ってたのに」

 女の子たちは揃ってショックな顔をする。罪悪感で心が苦しい。嘘は……言っていない。相手が女の子じゃなくて、どっからどう見ても男である俺だけど。

「じゃあ森くんは?」

 え、何、じゃあって。

「えーっと?」

 へら、と笑って首を傾げると、好きな人! って声を上げる。……いや、あの、じゃあって。じゃあ俺でいいやってこと? 傷付くわ。

「俺は……」

 今、好きな子いないよ。そう言いたいのに言葉がつっかえて出てこない。脳裏には城野の顔が浮かんで消えない。

「えへ、実はいるんだよねえ」

 漸く出てきた言葉は、言いたかったものではなかった。でも、口に出した瞬間なんだかしっくりき――いやいやいや! 落ち着け俺! その考えは危険だ!

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