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 とにかく強く否定しておかなければ、と睨むと城野は眉を顰めた。

「そういう顔すんなっつってんのに」
「ほんと俺の顔好きっすね」
「そうだな。最初は見るたびにイライラしてたけど」

 「あれはすげー好みだったからかもしれないな」俺には到底理解できないようなことを言ってひとり頷いている。嫌われたくはないけど、かと言って好かれたいわけでもない。俺はあの時結局どうすればよかったのかと頭を悩ませる。ここまで執着されるとは思っていなかった。

「…でも俺、本当に付き合うとか、むりっす」

 ぼそりと呟くと、城野は黙った。そしてぐしゃりと頭を乱暴に撫でる。ちょっとだけ痛い。

「な、なに――」
「お前ってずるいよなあ」
「は、はあ?」
「そんなに軽そうな見た目してんのに真面目で良い奴で。字も綺麗。ギャップって言うのはこういうことを言うんだな」

 は、と間抜けな声が口から出る。言われたことを理解し、かっと顔に熱が集まる。褒められたからだ、と自分に言い聞かせるように心の中で呟く。優しい顔で、嬉しい言葉を言われたからじゃない。相手が城野だからじゃない――。

「いいよ。俺は待つ。…でもお試し期間ってことで、俺にチャンスをくれないか?」
「お試し……というと」
「期間は一週間以上で、お前が決めて良い。その間に、そうだな…まずは俺がアリかナシか答えを出して欲しい」
「付き合うってことっすか?」
「ああ」

 アリかナシかって……俺は目をきょろきょろと動かす。どうしよう。怖いんだ。このままだと……俺は、城野を受け入れてしまうかもしれない。でも、横暴な城野が頼んでくるのを断りづらい。俺は迷って俯いた。口が動かない。

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