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 動揺を悟られたくない。心臓の音が聞こえていないか不安だ。

「俺の顔が好きだからですかあ?」
「まあな」

 …やっぱり顔だけなんだ。地味にショックを受けると、城野は続けて言った。

「でも好きな顔だからってわけじゃねえよ」
「……え、どういう…」
「こういうこと」

 は、と思った瞬間。抱き締める力が緩んだかと思ったら頬に軽く当たったそれ。可愛らしい音。俺はあんぐりと口を開けて頬を押さえる。こういうことって。こういうことって……!

「何もしないって言ったのに!」
「そこかよ! ちげえだろ!」

 違うとかそういう問題じゃない! 

「つーか口なら兎も角頬でんな怒るなよ」
「は、はあ!?」

 俺は声を荒げる。……いや、まあ、口よりは…ってだからそういう問題じゃない!

「っていうかこういうことってどういうことですか!? 結局意味わかんないし!」
「だーかーらー…テメェが好きだっつってんだよ。顔だけじゃなくて、内面も」
「え、あ、そ……ええええ!?」

 叫ぶと、城野が鬱陶しそうに言った。「耳元で叫ぶな」
 叫ばずにいられるか!

「え、でもそっち系じゃないって…俺のこと好きじゃないって…」
「あ? あー、言ったかんなこと。男が好きなわけじゃないが、別に駄目なわけじゃない。バイってやつだな。お前と関わっていく内に好きになってった」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺展開に追いつけない……」
「お前は黙って俺と付き合ったらいいんだよ」
「いや良くないだろそれ!」

 問題はたくさんある。俺はいい加減放して欲しいという気持ちで城野の背中に手を回して制服を向こう側に引っ張る。思ったよりすんなり離れていったが、何だか不服そうな顔だった。うん、俺は何も見ていない。

「どうしたら付き合ってくれるんだよ」
「どうしても付き合いませんよ」
「は?」

 城野がぎろりと俺を睨む。とっても怖い!

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