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「あ、見て。城野先輩だ」
「ほんとだ。かっこいい」

 生徒会室に向かう最中、ちらほらと聞こえる声。城野以外のことも囁くけど、圧倒的に多いのは城野に対するものだ。人気なのが窺える。俺はにこりともせず前を堂々と歩く城野を見た。……うーん、納得がいかない。いや、確かに格好いいよ。頭もいいし運動もできるんだろうよ。でもなあ。性格がね。こんなに女の子にちやほやされてる奴が俺の顔が好みで、俺にばっか構っているんだから、なんだかなあ。……ちょっと。ちょっとだけ優越感を覚えるけど。
 きゃあ、と黄色い声が上がる。そっちに顔を向けると、俺を見て顔を赤くしている女の子たちがいた。あ、と口元に手を遣る。知らず内に笑っていたらしい。――城野のことで笑うとは。こんなことを城野に知られたらニヤニヤとしながらからかってくるに違いない。まあ、城野はこっちなんか見てないし、見てたとしても悟られるわけがないけど。
 俺はにこりと笑うと、女の子たちに手を振る。すると、先程より大きな声で女の子たちが興奮したように叫ぶ。

「きゃああ! 森先輩が手を振ってくれた!」

 ほほう、あの子たちは一年生か。

「てか佐代先輩と付き合ってるのかな?」
「美男美女だよねえ!」

 俺はかなちゃんに視線を移す。かなちゃんも声が聞こえていたようで、苦笑している。俺は全然オッケーだけど、俺にかなちゃんは勿体なさすぎる。かなちゃんは俺みたいなチャラ男とは付き合いたくないだろうし。

「かなちゃん、否定しよっか?」
「あ、ごめんね。森くん。私みたいなのと付き合ってるなんて誤解されて、嫌だよね」
「え!? いやいや何言ってんのそれは俺の台詞だよ!?」

 かなちゃんは即座にいやいやと首を振る。俺もいやいや違うと首を振った。

「いやいや」
「いやいや」
「……テメェら、何イチャついてんだよ」

 否定し続けていると、前から物凄く不機嫌そうな声が聞こえてきた。俺たちは同時に青くなって、口を閉じる。

「黙って歩け」

 俺たちはこくこくと頷いた。チッと舌打ちした城野が先程より早足で歩いて行く。月島先輩は困ったように眉を下げて、城野について行く。……何で、そんなに怒るんだよ。俺は不満を抱きながら、城野の背中を睨んだ。

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