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(side:尚志)






「尚志くん…?」

 奈美に不審感の含まれる声で話しかけられ、俺ははっとして視線を奈美に移す。視線が合うと、奈美は俯いた。

「悪い、なんだっけ」
「……ううん、いいよ」

 そう言うと、顔を上げて苦笑した。胸に罪悪感が広がり、自分の行動に苛立つ。
 俺は大樹の俺に対する気持ちに気付いていた。伊達に告白されたり見られたりしていない。あの熱い視線は、紛れもなく――…。
 だが、勿論その想いには答えることができない。大樹のことは幼馴染兼親友だし、俺は女が好きだ。将来のことも合わせて考えると若気の至りにしかならないだろう。
 しかし。最近の俺はどうかしている。気がつけば大樹のことを見ている。奈美と喧嘩した理由もそれだし、というかそれに逸早く気づいたのが奈美だ。

『私より、そんなに田村くんのことが気になるの?』

 温厚な彼女が顔を歪めて放った言葉。俺は動揺して返すことができなかった。それにまた腹が立ったらしく、涙を大きな瞳に溜めて去っていってしまった。そして馬鹿なことに、俺は奈美を追いかけなかった。
 その時、大樹が女子と楽しそうに笑っていることの方が気になってしまったのだ。その笑顔が、俺と一緒に話したり馬鹿やったりしている時より楽しそうに見えて、醜い感情が俺を占めた。
 奈美と喧嘩したらいつも大樹に相談している。俺は最悪な奴なのだ。あいつの気持ちを知っている癖に。だけど仲直りしたいのも本当だし、それを相談できるくらい信頼しているのも大樹なのだ。
 漸く今回も仲直りできたが、俺の心はもやもやとしている。あの大樹が合コン。考えもしていなかった。何故急に? どうして俺に言わずに決めてしまった? …もしかして、俺のことは諦めるのか――?

「それでね、尚志くん」

 はっとする。慌てて奈美の話に相槌を打った。
 俺は今、何を考えていた…? 行く行かないは大樹の勝手だし、諦めるのは逆にいいことじゃないか。俺は気持ちに応えられないし、大樹もそれを分かっている筈だ。だから、このまま大樹にも彼女ができれば、いつか笑い話に――…。
 嫌だ、と直感的に思った。でもそれは恋愛感情ではなく、親友を取られたくないという気持ちが大きい所為だろう。だが、そうは思っても、このもやもやは一向に晴れない。何故かは、どうしても認めたくなかった。

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