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「こんにちはー」

 はっとする。にこにこと可愛らしい笑顔を浮かべたかなちゃんが陽菜ちゃんと一緒に生徒会室に入ってきた。

「どぉも〜」
「やっほー、陽菜ちゃん、かなちゃん」

 城野を視界から外して笑う。視線を感じる…! 絶対向かないぞ。もし陽菜ちゃんやかなちゃんの前でキスなんかされたら最悪だ。いや二人の時でも最悪だけど。……というか、TPOを考えずにキスをされたら勘違いされて噂になるんじゃないか!? 嫌だそんなの…俺不登校になるよ。

「森くん、なんか疲れてる?」
「うん、そー。かなちゃん癒してー」

 何でこんなに可愛くて優しいのかなちゃんって。ぎゅっと、でも優しく抱き付くと、きゃ、という可愛らしい悲鳴が上がった。それにへらへら笑うと、かなちゃんは困ったように眉を下げる。

「もう、森くん」
「かなちゃん、照れてる? かわいー」
「森くん!」

 かなちゃんの白い肌がぱっと赤くなる。先程までのことが消えていく。よし、さっきのことは水に流してやろう。俺ってば心が広い。

「テメェら、無駄話してんじゃねえよ」

 しんとなる室内。冷たい言葉。……だから! 空気を悪くするなよ!
 腕の中のかなちゃんが怯えたように身を縮ませる。まるで小動物のようで、俺がかなちゃんを守らねば! という使命感が芽生えた。
 俺はぎゅっと腕の力を強くして城野を睨んだ。奴も――俺だけをじっと睨んでいた。先程までの饒舌さはない。つーか無駄話ってさっきのがまさに無駄だろ。自分のこと棚に上げないでよ。

「別に良いじゃないっすかー。まだ月島先輩も来てないし。仲良くなることって悪いことじゃないっすよね?」
「……ほお」

 城野の口角が上がった。悪魔のような笑みに俺は顔を引き攣らせる。何だかとてつもなく嫌な予感がするぞ。

「じゃあ勿論俺とも仲良くするべきだよなあ?」

 げっ! こいつ、かなちゃんたちの前で……!
 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてる城野に顔を歪めると、俺の腕の中の天使が小さく呟いた。

「笑った…」

 驚きと喜びの含まれた声に俺は恐る恐る城野から視線を外し、かなちゃんを見下ろす。かなちゃんはきらきらと目を輝かせて、口を開けて笑った。

「え、ええと、かなちゃん」
「森くん、座って皆で話そう!」

 えええええ、となっている間に腕を引っ張られ、椅子に座らされる。すっかり定位置となったこの席。一番最初に座った席であり、悪魔と天使に挟まれた席でもある。
 ククク、と低い笑い声が近くで聞こえ、俺は口をへの字にした。


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