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「ヤらないっつーのは約束する。でもキスはお前次第だな」
「そんな…」

 笑わないなんて無理だけどもう一度キスされたくない。俺は一体どうすればいいんだ。勿論辞めるなんて無責任なことはしない。だけど……と頭を悩ませていると、じろじろとこっちを見ている俺様暴君野郎がまたとんでもないことを言いだした。

「そういう顔もいいな」

 そういう顔ってなに。やめてほしいマジで。そういうことは女の子に……はっ! そうだ!

「あのぉ、お――会長って、彼女とかいないんすかねえ」
「……おい、月島は名前で呼んで何で俺は会長なんだよ」

 質問に答えず、不機嫌そうに顔を顰める俺様暴君野郎。月島先輩はそりゃ、尊敬できる先輩だし、役職なんかじゃなくて名前で呼びたい。その反対も然りなのでお前は呼びたくないってことだよ! 
 ……とは流石に言うことができなかった。何されるか分からないからね。俺は渋々城野先輩、と言い直した。俺様暴君野郎――城野は意外そうに目を丸くする。

「へえ、名前は覚えてたんだな」
「……まあ、そりゃあ」

 俺は頭は悪いけど、人の名前と顔を覚えるのは得意だ。別に覚えたくないけど、城野の顔と名前もばっちりだ。

「…で、城野先輩。彼女は?」
「いねえよ」
「…あ、そうすか」

 別に驚きはしなかった。一人を好きになって、というより色んな人を侍らせて遊んでそうなイメージがある。こんだけ美形だったら女性は放っておかないだろうからな。そもそも彼女がいたら俺にキスなんてしない。浮気、というのは大袈裟だけどそれでも裏切り行為だ。

「作ろうとは思いません?」
「思わねえな。面倒だし、第一そんな余裕はない」

 面倒、はちょっと分かるかも。俺も特定の相手は今要らないなって感じ。でも、余裕がないっていうのは…意外だ。何でもそつなくこなしてそうな超人的な奴に見えるけど。……ちゃんと普通の高校生なんだな。まあ生徒会長って俺よりたくさん仕事あるだろうし、成績だって下げちゃまずい。確かにあんまり遊んでる暇はなさそうだ。
 ……でも、そっか。作る気がないのか。がっくりと肩を落とす。彼女がいるか作れたら俺のことは構わなくなるだろうと思ったけど、これは無理そうだ。俺の考えていることが分かったのか、城野が馬鹿にしたように笑った。


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