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 俺ははっとする。

「まままま、まさか…そっちの人!?」
「ぶっ殺すぞ」

 こわっ! 

「俺だって認めたくねえよ」
「え…なに、あんた俺のこと好きなんすか」
「好きなわけないだろ」

 そんなばっさり言うこたぁねえだろ! 傷つくわ! 好きとか言われても困るけど! ……というか好きなわけでもあっち系の人でもなければ一体何なんだ。何故俺はキスをされたんだ。ファーストでも好きな奴以外からのキスは嫌という乙女でもないけどそういう問題でもない。

「えーっと、じゃあなんで」
「顔」
「へ? 顔?」
「テメェの顔が好みなんだよ」
「は、はあ…?」
「押し倒してヤれるくらいには」
「は、はははは、何言って……あ、俺そういえば用事があったんだった。帰らないと!」

 引き攣った笑みで冗談にしようとしたら俺様暴君野郎の目がギラギラしてた。獲物を前にした獣のような目だ。
 ……やべえやつだこれ! 今とんでもないこと言われた! まさか共学で貞操の危機が訪れようとは!
 くるりと身体を反転させた俺の肩をがしっと掴む手。俺は、ひっと小さく悲鳴を上げた。

「まあ待てよ」
「待てるか!」

 思わず敬語がなくなる。っていうかこいつ敬語使う価値ねえよ! 俺の貞操狙ってる奴に敬意なんてありません!
  肩の手を払って向き合うと、俺様暴君野郎はにやりと笑った。俺は思った。悪魔の笑みだ…。

「俺は近付くんじゃねえと言った。それを無視したのはテメェだ」
「い、いや、それは…」

 確かにそうだけど。でもまさかキスされて顔が好みと言われるなんて想像できないだろ。

「でも、まあ、生徒会を辞められても困る。…顔だけじゃなくて、お前の字も好みだからな」
「…え、マジ?」

 字のことを褒められて顔が緩む。そんな俺をじっと睨みつける俺様暴君野郎。

「キスしたくなるから笑うなよ」
「無茶言わないでください」

 つーかこいつ何でこんなに饒舌なの。それくらい皆が居る時に話せよ。

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