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 一週間が経った。まだ役員になったばかりということで、引き継ぎしたり仕事のやり方を学んだり、結構忙しかった。でも必然と役員の皆と接することが多いわけだから、どんどん仲良くなっていった。一人を除いて。
 月島先輩は頭が良くて優しくて、頼れる先輩。陽菜ちゃんは見た目や喋り方こそあんなんだけど、根は真面目でいい子。かなちゃんは気が利いて、可愛い天使のような子。……そして俺様暴君野郎。相変わらず俺のことが嫌いみたいで、いつも睨まれる。…だけど、俺以外とも関わろうとしない。事務的なものばかりだ。話しかけんなオーラも出してるし、笑うことなんて一度も見たことないし、俺たちの輪に入らない。要するに一人だけ浮いている。月島先輩はあいつのこと気にかけてるし、陽菜ちゃんやかなちゃんも心配してる。俺は……別に、だけどさ、空気が悪いんだよ、あいつのせいで。
 俺はどうせ嫌われている。だから、これ以上嫌われても全然辛くないし、何かされたら先生に言いつけてやる。――だから、俺は言ってやる。

「いい加減にしてくれませんかね?」

 生徒会室には俺と奴の二人だけ。他はまだ来ていない。俺様暴君野郎が顔を上げる。目が合った。俺たちは暫し睨み合った。

「…ああ?」

 奴が声を発した。眉間の皺がぐっと深まり、より一層怖い顔になる。

「テメェ、喋るなって――」
「それですけどー、俺何かしましたかあ? 顔が腹立つからとか意味不明なこと言われても俺納得できないし、ちゃんとした理由が欲しいんすけど。何かしたなら謝るし」

 顔が腹立つというのもあるのかもしれない。だけど、日が経つにつれてそれだけが理由じゃないんじゃないかと思うようになった。俺が知らないところで何かやらかしてしまったんじゃないかって。だって嫌われ方がおかしい。監視するように俺のこと見て来るし、雑用を押し付けられることもあるし。
 案の定、俺様暴君野郎は動揺した。焦ったような顔は初めてで、俺はまた新しい一面を見ることができたと少しだけ達成感を覚える。

「やっぱり理由があるんすね?」

 俺は一歩足を踏み出す。奴が眉を吊り上げた。

「テメェ、近づくんじゃねえ! それ以上こっちに来たら――」
「殴るぞ、ですか? 別に殴ってもいいですよ。でも殴って損するのはあんたですよね?」

 俺様暴君野郎の言葉を遮って述べる。奴は苦虫を噛み潰したような顔をして黙った。俺は笑みを浮かべ、先程よりしっかりとした足取りで近付く。
 目の前に来たところで、俺はもう一度訊ねる。

「理由はなんすか?」
「……ッチ」

 いや舌打ちじゃなくて。答えろよ。視線で訴えかけた時だった。にゅっと腕が伸びてきて、胸倉を掴まれると、ぐいっと引っ張られた。マジで殴られる!? と怖くなった俺はぎゅっと目を瞑る。襲ってきたのは、ふにゃっとした感触。……ん?
 ぱっと手が放された。俺は呆然と俺様暴君野郎を見る。

「こういうことだよ。分かったかクソが」

 いやどういうこと!?
 俺は口を押さえる。な、何で俺が男に、しかもこんなやつにキスされなきゃならんのだ!?


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