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 感激していると、鋭い視線がちくちくと突き刺さる。言わずもがな俺様暴君野郎だ。お前は名前で呼んでやんないからな!

「あたしは会計になった一年の山町陽菜でぇす。よろでーす」

 う、うん。よろしく。隣でかなちゃんが可愛らしく拍手したので俺もぱちぱちと手を打った。ギャル…もとい、陽菜ちゃんはにひ、と笑う。あ、結構笑った顔は可愛いかもしれない。好みじゃないけど。
 そして! 次はかなちゃんだ! 

「私は陽菜ちゃんと同じく会計になりました二年の佐代かなです。皆さんの足を引っ張らないように頑張ります!」

 はい、かなちゃん天使(二回目)。拍手!
 笑顔がキュートだね! と見つめているとかなちゃんと目があった。そして、室内の全員の視線を集めていることに気づいて、俺はにっこりと笑った。敢えて俺様暴君野郎に向かってな!
 俺様暴君野郎は呆気に取られたように目を見開く。ふてぶてしい顔を崩せたことが嬉しくて内心ドヤ顔。

「書記の森敦です! かなちゃんと同じ二年でーす。あ、クラスは違うけどね。ねー?」
「あ、うん。そうだね」
「こう見えて字には自信がありまーす! 宜しくお願いします!」

 俺様暴君野郎以外の人がぱちぱちと拍手してくれて俺は笑みを深めた。なんか左からのすげー視線が痛いけど俺気にしないもんね!
 ……で、顔合わせ終わったけどどうすんの? もう解散? 俺はちらりと俺様暴君野郎を見る。目が合って、奴は目を見開き、俺は固まる。だからこいつ俺に視界に入るなとか言う癖に何で見てくるんだよ! 意味わかんねーの。

「…えーと、城野くん…?」

 月島先輩が窺うように俺様暴君野郎を見る。はっとした奴は、眉を顰めて一枚の紙を取り出した。

「こいつにアドレスと電話番号を書いて帰れ」

 そう言うと紙を中央にぱっと投げる。そのまま腕を組んで、早く書けという空気を作った。
 最初に動き出したのは月島先輩。筆記用具を取り出してさらさらと書くと、自分のペンと紙をそのまま横に遣る。自己紹介と同じ流れだ。陽菜ちゃんがお礼を言ってそれらを受け取ると、同じように書いていく。
 陽菜ちゃん、そして次にかなちゃんが書くのをぼんやりと眺めていると、すぐに自分の番が回ってきた。まず名前を書く。そしてスマホを取り出し、タップしてプロフィールを開いた。アドレスを一つ一つ確認しながら書いていく。番号も同様だ。

「わあ、森くん、ほんと字が綺麗。羨ましいなあ」
「ほんと? 嬉しいな、ありがとー。でもかなちゃんも綺麗だよ」

 お世辞ではない。本当に上手いと思う。でもかなちゃんは苦笑してありがとう、と口にする。お世辞だと思われちゃったのかな。俺はちょっと悲しくなりながらペンを月島先輩に返した。そして紙を俺様暴君野郎に渡す。
 紙に視線を落とす俺様暴君野郎。……えーと、帰って、いいんだよな? きっと奴を除く皆が思っただろう。顔を見合わせ、タイミングを計る。そうしていると、苦笑しながら月島先輩が立ち上がった。流石っす月島先輩!

「城野くん、帰っていいんだよね?」
「ああ」
「よし、じゃあ皆、帰ろう」

 空気が和らぐ。俺は鞄を持って立ち上がった。

「かなちゃん、もう帰るよね? 一緒帰ろうよ」
「うん、いいよ」

 さり気なく誘ってみると、笑顔で了承された。やったね! 俺は一応生徒会室を出る時に一礼して、かなちゃんと一緒に帰ったのだった。

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