26

(side:慧)

 …ということがあったのだと辛島が語る。それで俺のことが気になりだしたとか。俺は、へえ、と声を出す。

「…ごめん、全然覚えてない」
「だろうな。馬鹿だから」
「そう…馬鹿だから、っておい」

 否定できないのがつらいところだ。辛島は懐かしむように宙を見た。

「お前は見てて飽きなかった。敵意を向けて来るかと思ったら笑顔を見せる」

 「今もだな」辛島は俺を見て悪戯っ子のように笑った。辛島の貴重な顔を直視し、俺の顔は少しだけ熱くなる。

「でも…高校まで一緒にするなんてな」
「別に行きたいところなかったし」
「お前はもっといいところ行けたはずなのに。反対されなかった?」
「教師には。親は放任主義だから」

 辛島はそこまで言って、小さく首を傾げる。

「何で俺が一緒にしたこと知ってるの」
「俺の志望校を訊かれたって、奈々美が」
「ななみ……ああ、妹」

 納得がいったらしい。辛島は興味を失ったように欠伸をする。
 結局俺たちはまだ付き合っていない。辛島がとりあえず一年待ってくれるというのだ。俺はそれに甘えている。
 こいつ、俺に甘いな。辛島の想いを知ってから、今まで気づかなかったことに気付いた。むしろなんで気づかなかったんだ、ってレベルで分かりやすい。

「鈴谷」
「ん?」

 辛島の方に顔を向けると、すぐにその端正な顔があった。驚いて仰け反りそうになるが、さっと顔が一気に近づき、一瞬で離れて行った。唇に微かな熱が残る。

「え…」

 い、今のって。

「大人しく待ってるんだから、ちょっとくらいいいでしょ?」
「え、い、いや、え」
「あのー、きみたち」

 混乱して言葉にならない俺と楽しそうな辛島。そんな俺たちの後ろから声をかけてくるやつがいた。急いで振り返ると、げんなりとした清水がいた。

「仲がいいのは宜しいけど、場所を考えような」
「何見てんだよ」
「見えたんだよ」

 はっとする。ここは人が行き交う場所…。顔に集まっていた熱がさっと引く。

「かっ辛島の馬鹿!」

 俺は辛島の頭に勢いよく拳を落とした。












fin.

完結です!
もしかしたらちょっとだけ番外編というか後日談を書くかもしれません。

以下登場人物紹介


鈴谷 慧(すずたに けい)

チャラ男ではないけど見た目と馬鹿なせいでチャラく見られる。
シスコン。

辛島(からしま)

慧にだけ態度が違うのに気付いて貰えなかった人。
何でもできるけど恋愛に関しては不器用

清水 優樹(しみず ゆうき)

爽やかイケメン。慧とは今のところ一番仲が良い。

鈴谷 奈々美(すずたに ななみ)

慧曰くどんな女の子よりも可愛い。
清楚系。

五里 力(ごり りき)

ゴリラみたいな先輩。
あまり評判は良くない。



[ prev / next ]



[back]