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(No side)
「この時間は花を描くのよ」
美しい顔の男は年上の女性に注意され、不機嫌になった。花は嫌いだ。自分の容姿がコンプレックスだった男は、授業で花を描くように言われたが、彼は花ではなく、大量の種を描いた。花の一部である。自分は別に間違ったことをしていない。男は思ったが、年上の女性――担任の先生は許してくれそうにない。仕方なく分かりましたと答え、スケッチブックの新しいページを開く。先生が遠くへ行くと、ページを戻した。
周りにいた男女が馬鹿にしたように笑う。その声が非常に耳障りだった。衝動のまま種が描かれたページに手をかける。
「あー! それ、ヒマワリの種だ! おれ、好きだよ、ヒマワリの種」
「っ!?」
男――辛島はびくりと体を震わせる。声のした方を向くと、初対面で失礼なことを言ってきた男がにこにこと笑いながら近づいて来た。辛島は、自分と違って愛想が良いこの男のことが嫌いだった。ぎろりと睨むが、その男、鈴谷は依然として笑っている。
「ていうか絵上手いじゃん!」
「……煩い。今から描き直すんだ」
「え? 何で?」
何で。無邪気に首を傾げる様子が腹立たしい。
「…先生に言われたから」
「ふーん? じゃあさ、その絵おれが貰っていい?」
辛島は困惑した。何でこんな種しか描いてない絵、欲しがるんだ。上手いって何だ。これくらい、誰でも描ける。辛島は疑問をぶつける。
鈴谷は照れたように笑い、自分のスケッチブックを見せた。ぐちゃぐちゃと線が引かれたそれに、辛島は目を丸くする。
「…何それ」
「おれが描いたヒマワリ!」
「…へたくそ」
まったくヒマワリに見えない。鈴谷は誇らしげに胸を張ると、自分のスケッチブックと辛島のスケッチブックを近付ける。隅に描かれたヒマワリの種と、中央に大きく描かれたヒマワリの絵。辛島の描いた種が加わることによって、良く分からない黄色の物体が、ヒマワリに変化した。
辛島は目を見開く。きらきらとした太陽の中、鈴谷はヒマワリのように笑って見せた。
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