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それからというものの、辛島は俺に、前以上に絡んでくるようになった。喧嘩もしなくなったようで、怪我も順調に治っていっている。……うん、それはいいんだけど。
「お兄ちゃん、辛島くん来たよー」
げっ。
しゃこしゃこ歯を磨きながらげんなりとする。俺は片手を挙げ、了解を示す。奈々美は鏡越しににっこりと微笑んだ。俺は歯磨き粉を吐き出し、口を濯ぐ。
「すっかり仲良くなっちゃって」
「……あー、うん」
「今度休みの日に家呼んでよ」
「えー」
奈々美に近づけたくない。奈々美に興味があるわけじゃなくても、何があるか分からないし、奈々美の方が好きになる可能性もある。
「…考えとく」
「絶対考えないでしょ、それ」
むっと頬を膨らませる奈々美。くそ、かわいい。そんな顔男の前でやるなよ。惚れられるぞ。俺は奈々美の背を押しながら洗面所を出た。鞄を手に取って玄関に向かう。奈々美はちょこちょこと後ろを付いて来た。
「いってらっしゃい」
「うん、いってきます。奈々美もあんまりゆっくりしすぎるなよ」
「分かってるって」
手を振る奈々美に降り返して、ドアを開けた。イケメンが顔を上げる。
「……おはよう」
「おはよう」
辛島の隣に並ぶと、歩き始める。
「あのさ…家まで迎え来なくていいんだけど」
なんか付き合ってる男女みたいだ。俺も元カレ迎えに行ってたし。でも俺たちはまだ付き合ってるとかじゃないし、そもそも俺は男だ。なんだかちょっと複雑。
「なんかあったらどうする」
「なんかって…滅多に起こらないだろ」
「起こるから言ってんだよ」
「……辛島が?」
辛島はちらりと横目で俺を見て、小さく頷く。なんだろう、女の子にナンパされたり不良に絡まれたりとかかな…。でもそれは辛島が、だろ。俺は別にそんなこと一度もないし、ただ辛島に面倒なことさせてるだけだと思うんだけど。
「でも…」
「…俺が、お前といたい。それでもだめ?」
じっと見つめられる。う。ちょっとどきっとした。俺は赤くなりそうな顔を下に向けて、呟くように言った。
「…だめ、…じゃないかも」
「ならいい」
ふ、と笑った気配がして顔を上げると、何だか穏やかな顔をしていた。
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