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 どんどん人気のないところへ入って行って、追いついた時はすでに喧嘩が始まっていた。俺は陰からその様子を窺う。辛島がどれくらい強いのか知らないが、数人相手では流石に厳しいだろう。どうしよう。俺があそこに入って行っても瞬殺される。
 迷っているうちにどんどん人が倒れていく。俺は無表情で人を殴りつける辛島に恐怖した。そして、殴られている辛島にも…。
 辛島の背後できらりと何かが光って、はっとする。そしてそれが何か分かった瞬間、俺は叫んだ。

「辛島! 後ろ!」

 辛島は俺の声に反応し、さっと後ろを向き、光ったもの――折り畳みナイフを蹴り飛ばした。ナイフは地面に落ち、持っていた奴は辛島の拳で沈められた。残っている奴らと辛島はこっちを見る。全員怖い顔だ。辛島はここにいる俺に怒っているんだろう。こっちへ走ってくる。

「あ、おいテメェ!」

 不良たちが辛島に向かって怒鳴る。しかし何も聞こえなかったというように真っ直ぐこっちへ向かって来て、怖い顔のまま俺の手首を掴んだ。

「か、辛島…痛いんだけど…」

 そう言った瞬間更に力を込められ、口が引き攣る。

「走るぞ」
「え――」

 俺の返事を待たずに、辛島が走り出す。俺は転びそうになりながらも足を動かした。

「逃げんのかテメェ!」

 後ろで不良が叫んでいるが、追っては来ないようだった。












 ぜえぜえと息を吐いている俺を、辛島が冷たい目で見下ろす。

「なんであそこにいた」
「な、んでって…」

 ていうかお前こそなんでそんな涼しい顔なの。結構走ったのに。全速力で。もしかしてあれ辛島にとっては全速力じゃなくて軽いランニング程度だったのか?
 息を整え、辛島を追ったことを告げると、辛島は深いため息を吐いた。




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