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 辛島に話しかけよう。そう思って数日が経った。頭の中でシミュレーションして、さあ行くぞと思うんだけど、直前で頭が真っ白になって結局声をかけられない。清水からも呆れた顔で見られるし…。
 清水に相談に乗ってもらった日、吉沢さんから、フラれたということを聞いた。俺はほっとしていた。自分から付き合えなんて言ったくせに、勝手だ。でもあのおかげで辛島の気持ちを知ることができたし、まあ良かったと言えば良かったのかもしれない。吉沢さんには本当に申し訳ないけど…。
 俺は机に座ったまま溜息を吐く。教室にはもうほとんど人がいない。勿論辛島も。辛島は俺のことを待ってないし、まったく関わってこない。しかも日に日に辛島の体には傷が増えていっている。何か危ないことに巻き込まれてないといいけど…。

「鈴谷、帰んねーのー?」
「…いや、帰る」

 クラスメイトから声をかけられ、ハッと我に返る。じゃーなと手を振ってくるクラスメイトに手を振り返して、立ち上がった。がたりという音がむなしく響く。教科書をちょっと乱暴に詰め込んで、鞄を肩にかけた。










 俺は正門を出たところで、あっと声を出す。見慣れた背中が前を歩いている。俺はまた声をかけるか迷って、とりあえず一定の距離をとって後ろを歩いた。
 少し経ったとき、柄の悪いいかにもな人が数人辛島の前に立つ。内容は分からないが、何か言っている。辛島は無視して横を通り過ぎようとしたが、それを阻まれ、最終的に全員で移動し始めた。
 怖くて手が震える。集団リンチっていうやつなのか、もしかして。助けないと! 俺は慌てて不良集団の後を追った。

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