20

「鈴谷が気分悪いって言うんで付き添ってました」

 隣でさらっと嘘を吐いている清水。俺は同意を示すために頷いた。

「鈴谷大丈夫かー?」
「おー」

 声をかけてくる奴らにへら、と笑って片手を挙げる。先生は何かをさらさらっと書くと、席に着くよう指示する。俺たちは大人しく席に向かった。俺はちらりと辛島を見る。こっちを見ようともしない。まるで興味がないみたいに。そういえば辛島は良く俺のことを見ていた。だから辛島の方を向くと、目が合うことが多かったんだ。
 少し悲しくなりながら辛島から視線を外し、席に着く。とりあえず教科書諸々を出して頬杖をつく。先生の話は右から左。俺の頭の中は今辛島のことでいっぱいだった。覚悟があるかと問われれば、俺はないと答えるだろう。普通に女の子と交際して、女の子と結婚して、幸せな家庭を築きたい。
 でも、それでいいんだろうか。後悔しないんだろうか。俺は辛島とどうなりたいか、自分でも分からない。一番良いのは友人としてなんだろうけど、それを辛島は望んでいないだろうし。
 俺は吉沢さんを見る。ここからじゃ顔が見られないが、いつも通り…か? 辛島はどう返事をしたのだろう。断ったのか、返事をしていないのか……それとも。付き合った、とか…。そう考えた瞬間、ずきりと胸が痛んだ。
 どうやら俺は、二人が付き合うのは嫌らしい。吉沢さんのことが気になっていたからではない。吉沢さんに手紙を渡してくれと言われた時はこんなんじゃなかった。
 溜息を吐いて、黒板を眺める。良く分からない数式がびっしりと埋め尽くされていて頭が痛くなった。俺、ほんと馬鹿だ。まだ基礎なのに既に分からない。どうしてこんな馬鹿な俺のことを好きだと思ったんだろう。ほかにも辛島なら選べたはずなのに。
 分からない。俺は、知りたいと思った。

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