17

「昨日は悪かったよ。昨日だけじゃない、今までのことも…」
「……ああそう」

 辛島は振り向きもせず、興味なさげにそう呟いた。

「おい、待っ――」

 俺は言いかけて止める。引き留めてどうするつもりだ。何を言えばいいのか分からないのに。

「……はー」

 深いため息を吐く。肩をがっくりと落として、ゆっくりと教室へ向かった。

「あ、鈴谷、おはよう」

 はっとして振り返ると清水がいた。俺はへら、と笑って挨拶を返す。清水は爽やかな顔で言い放つ。

「酷い顔だな」
「お前も酷いわ」

 さらっと言いやがって。溜息を吐くと、ぽんと頭に手が乗った。

「何か悩みがあるなら俺が聞いてやるけど」
「……まじ?」
「まじ」
「じゃあ、頼むわ。教室じゃ話しにくいから、どっか別の場所で…」
「おっけー、ついて来いよ」

 本当に良かったんだろうか。でも、誰かの意見を聞きたかった。それに、このままじゃまた選択をミスって辛島を怒らせたり傷つけたりするかもしれない。
 俺は清水の後を追って――。

「…って今からか!?」
「え、勿論」
「授業は…」
「ちょっとくらいいいだろ。ま、後が良いって言うなら別にそれでも構わないよ。俺の気が変わるかもしれないけど」

 「どうする?」清水は意地悪そうに笑って首を傾げた。俺は再び肩を落として、頷いた。清水は満足そうに笑い、背を向ける。俺は改めて清水の後を追った。

[ prev / next ]



[back]