14

 辛島は探るように俺を見てきたが、大人しく従ってくれた。辛島が教室に入るのを見届けて俺もそれに続いた。
 教室は薄暗い。夕日が教室の窓際を照らす。後ろ手でドアを閉めると、更に暗くなった。

「それで」

 くるりと振り返った吉沢が早く話せと言うように俺を見る。俺はごくりと唾を飲み込んで、鞄から先程の手紙を取り出す。

「これ…」

 辛島は一瞥しただけで分かったようだ。呆れと苛立ちが混ざった溜息を吐く。

「そういうのは全部断れって言っただろ」

 前からそういうのを何度も渡してきた。そしてこのセリフも何度も聞いてきた。いつもなら俺は分かったと答えるところだが。

「あのさ、それ吉沢さんからなんだけど…。まだ吉沢さんのこと全然知らないだろ? いい子なんだ。お前もきっと好きになると思う。だから付き合ってみないか?」
「――は」

 俺はぞっとした。酷く冷めた声だった。辛島の顔を見ると、酷く軽蔑したような顔で俺を見下ろしている。
 怒っている。俺が、怒らせた。

「ご、ごめん、その…」
「ごめん? 何が悪いか分かってない奴に謝れたくないんだけど」

 く、と辛島が笑った。眉を顰めて笑うその顔は、馬鹿にしているようにも、傷ついているようにも見える。俺は息苦しくなって、は、と犬のように吐いた。

「俺の気持ちなんて分かろうとしてないから、こんな残酷なことができるんだな」
「え…、っ!」

 辛島が俺の肩を掴んで壁に押し付ける。何するんだ、と言おうとした俺の口を何かが塞いだ。思考が停止する。ピントの合わない辛島の顔が離れていく。呆然としている俺に、辛島が呟いた。

「好きだ」

 鞄が肩から滑り落ちて、どさりと音を立てた。

[ prev / next ]



[back]