13

 礼を言って教室を出ていく吉沢さんを見送る。さて、俺も帰ろう。もう辛島は帰っただろうなと思いながら残りの荷物を鞄に詰め込み、教室を出ると、おいと低い声が隣から聞こえて肩が跳ねた。
 隣を見ると、壁に背を預け腕を組んでいる辛島の姿。不機嫌な顔をして俺を睨んでいる。

「あ、い、いたのか…」

 辛島は無言だ。いつからいたんだろう。吉沢さんが出ていったの俺のほんのちょっと前だから、吉沢さんもこいつに会ったよな…。

「遅い」
「遅いって、待ってろとか言ってないだろ」
「いいから帰るぞ」

 いいからって、俺は全然良くない。辛島は俺の返事を待つ気なんてないらしく、歩き出す。俺は再び文句が飛んできたら嫌だなと思って、その背を追った。

「帰る方向が一緒とはいえ、別に近くないだろ。先に帰ってろよ」
「俺の勝手だろ」
「そんなだから仲良いって勘違いされんだよ…」

 誰とも関わろうとしない辛島が俺にだけこんなことしてるから。清水も、吉沢さんも勘違いしたんだ。
 ……あ、そうだ、吉沢さん。手紙いつ渡そう。学校を出てからの方がいいよなあ。いや、でも人目がつかないところで渡したい。…どっか、空き教室とか…。

「あのさ、辛島」

 辛島が立ち止まる。肩越しに振り返って、何だと目で先を促してきた。

「ちょっと渡したいものがあるんだけど…」
「何」
「ここではちょっと。あそこ、入ってもいい?」

 奥の空き教室を指差すと、俺の指から場所を辿った辛島が、小さく頷いた。


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