12

 あの後自分の席に戻り、そのまま辛島と話すことなく一日が終わった。俺は清水と一緒に徐々に友達を増やしていったが、奴は相変わらずだった。近寄るなオーラを出している。それでも勇気ある女の子は近付いて話しかけていたけど、すべて無視していた。だから辛島はずっと一人だった。見た目の所為で今までより浮いているように見える。
 帰る用意をしていると、目の前に誰か立った。

「あ、あの」

 顔を上げる。肩辺りまで髪を伸ばしている、大人しそうな女の子だった。俺はどきっとする。俺が目をつけていた、ちょっとタイプな子だ。名前は吉沢さん。俺は名前を思い出すふりをして、ええと、と口にする。

「吉沢さん…だよね?」
「う、うん。えっと、あのね」

 小さく首を傾げて笑う。顔をちょっと赤く染めて更に可愛い。

「どうしたの?」
「こ、これ…!」

 吉沢さんは握っていたものを俺に差し出す。えっ。ちょっと待って。こんなところで――。

「辛島くんに渡してくれないかな…っ!?」

 俺はひく、と口を引き攣らせた。……何となく、嫌な予感がしてた。前に何度もこういうことがあったから。でも、でも吉沢さんがもうあいつに惚れてるなんて信じたくねえ…! 今までのあいつなら分かるけど、今あいつは不良みたいな姿なのに…。

「な、なんで俺?」
「だって仲…良いよね?」

 良くないです。
 ……そんなこと、笑顔で首を傾げる吉沢さんに言えねえ! 俺は、はははと笑って誤魔化した。そして手紙――ラブレターを受け取る。

「渡しとくよ」
「あっ…! ありがとう!」

 ああ…吉沢さんって、癒しだ。俺は思った。吉沢さんと辛島が付き合えば、この癒しを受けて辛島が取っつきやすい奴になるのではないかと。吉沢さんと辛島が付き合うのが心から喜べるかと言えば微妙だが、吉沢さんがフラれて悲しむよりずっといい。


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