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「なに、その顔は」
「いや…。仮に仲良くないとしても、見るからに人と連まなそうな辛島が一緒に帰ろうって誘ってくるんだから向こうは仲良くしたいんじゃないのか?」
「待て、あれは誘うなんて可愛らしいものじゃない。命令だった」
「それは置いておこう」
「置くな」

 そこ重要だから。あれは犬猫に呼びかけるような感じだった。つまり俺は下に見られているということ…!

「兎に角、仲良くなったら?」
「……なんで」
「絡まれても辛島がいれば安心じゃん。ほら鈴谷めっちゃカモにされそうだし…」
「やかましいわ!」

 …とはいえ。確かに清水の言う通りではあるんだよな。俺喧嘩とかしたことないし、護身術みたいなのも習ったことない。ていうか殴られたことすらない。女の子に平手打ちされた経験はあるけども。女と男じゃ全然違う。辛島のあれ見た後だからか、更に怖い。顔変形したらどうしよう…。

「まだ時間あるし、話しかけに行こうぜ」
「はっ!? いや今日は良いよ。心の準備が整ってから…」
「おーい辛島!」
「人の話をきけええええ」

 慌てて叫ぶと、辛島が振り返った。相変わらずの無表情でこちらを見る。

「鈴谷が呼んでるぞー」
「おおおおおい! 嘘! 嘘だから!」

 俺は用なんてない! 来られたら困る! 俺は乾いた笑みを浮かべながら嘘だと主張する。
 いや、辛島のことだ。きっと無視――。

「何」

 何でお前こういう時に限って無視しないんだよ…!
 


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