8

 翌日。悶々としながら学校へ行った。教室に入った俺は、視界に入ったものを見てぎょっと目を見開く。奴の顔に殴られた痕のようなものがあったのだ。あんなもの、昨日はなかった。昨日、別れるまでは…。
 はっと気がつく。俺に先に帰れと言った後、辛島は学校の方へ戻って行っていた。もしかして、その時に?
 俺の視線に気づいたらしい辛島が顔を上げる。お互い無言のまま数秒が過ぎた。

「おっ。おはよ、鈴谷。何してんの、そこで」

 後ろから声をかけられ、我に返る。振り向くと、清水が手を挙げて笑った。

「おはよう。…ごめん、邪魔だったな」
「いーよ。何か気になる事でもあった? ――ああ、あれ?」

 俺に続いて教室に入った清水が、辛島を見て苦笑する。

「教室に来た人いたじゃん? そのゴリ先輩があの後下っ端連れて襲ったけど返り討ちにあったらしいよ」

 清水まであいつをゴリ呼ばわり…!?

「え、えっと…その、ゴリ先輩っていうのは…」
「三年だよ。五里力先輩。まあまあ強いって言われてる人。だけど短気で、あんまり慕われてないらしい」

 あ、五里って名前なのね…。

「ていうか清水詳しいな」
「自己防衛のため。要注意人物は知っとかないと、何かあったらヤバいだろ?」
「確かに…」
「鈴谷だったら俺でも倒せるけど」
「やめて」

 清水は辛島を一瞥して、自分の席へ向かう。俺もそれに続き、鞄を机に置いて席に座った。清水がくるりと振り返る。

「それで」
「ん?」
「辛島と、仲良いんだな?」

 ……げ。あいつの話題かよ。

「良くない」
「え? そうなの?」
「腐れ縁なだけだ」

 へえ、と清水が相槌を打つ。あまり信じていないような顔だ。


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