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「保健室行くぞ」

 でも、と言おうとした俺を視線で制し、転入生に捕まれなかった方の手首を掴むと、ずんずんと歩き出す。背中に刺さる転入生と副会長の視線。そして俺たちを見守る奴ら。居た堪れない気持ちになりながらこの場を去った。










 会長が勢いよく保健室のドアを開ける。そして苛立ったように呟いた。

「ッチ、あのサボり魔が」

 それはもしかして養護教諭のことだろうか。保健室はこれまで訪れたことがなかったから面識がないが、サボり魔なのか…。

「ここに座って待ってろ」

 会長が指差した椅子に腰を下ろすと、それを見届けた会長が背を向け、棚を漁りだす。俺はぎょっとして目を見開いた。

「会長何して…!?」
「ああ? 見て分かんだろ。探してんだよ」
「いや勝手に触ったらダメでしょ!」
「いいんだよ俺は!」

 会長が首だけ振り返って叫んだ。「黙って待ってろ!」俺は仕方なく口を閉じて、じとりと会長の背中を睨む。そして、はあ、と小さく溜息を吐いた。…会長は、俺を助けてくれた。転入生じゃなくて…。嬉しくなって、ふ、と顔を緩めると頬がずきりと痛んだ。そう言えば殴られたんだった。思い出したようにずきずきと痛みだす。ちょっと虫歯になった時の痛みと似ている。
 頬を押さえていると、目の前に会長が立った。

「……これで冷しとけ」

 そう言って渡されたのは氷嚢だった。俺は感謝の言葉を口にしてそれを受け取り、頬に当てる。ひんやりとして気持ちがいい。
 会長の手の平に俺の手の平が重なる。会長の手は相変わらず温かい。目を瞑って手の温かさと頬の冷たさに浸っていると、突然手首に冷たいものが当たった。

「ひっ」

 情けない声を上げて目を開けると、手首に湿布が貼られていた。俺を襲った犯人はこいつらしい。

「ぶっ、情けねー声だな」

 会長が、先程の声に噴き出した。恥ずかしい。顔が熱くなって、殴られた箇所だけでなく、全体を冷やしたくなった。

「はっ、貼るなら言ってくださいよ」
「ん? ああ、次から気を付けるわ」

 ニヤニヤしながらぽんと俺の頭を叩く。絶対嘘だ。次も同じようにするに違いない。

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