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 ずきずきと手首が痛む。どうなっているのか気になるが見たくない。ぎゃあぎゃあと転入生と副会長が何かを言っているが、理解する前に流れていく。早く解放してくれ、ということだけをずっと考えていた。だから、目の前に迫っているものに気付かなかった。
 ガッと頬に固いものが当たって鈍い音と痛みが俺を襲った。殴られた――と理解するのに時間がかかった。呆然として頬を押さえる。野次馬めいた生徒たちが騒めいた。

「――島田!」

 びくりと体が震える。今の、声は……。首だけ振り返る。息を切らした会長が怒りの形相でこっちを見ていた。俺に向けられているのだろうか。それとも転入生……いや、やっぱり、俺…か?

「貴志!」

 転入生が嬉しそうな声で会長の名を呼ぶ。会長は無言のままこっちへ近づくと、視線を落とした。

「おい、貴志――」
「うるせえ」

 以上に空気が読めない転入生でも会長が怒っているのが分かったのか、口を閉じる。心なし強張っている気がした。顔はほとんど髪で覆われていて表情が分からないが。
 横で舌打ちの音がした。顔を上げようとした瞬間、俺の手首を掴んでいた転入生の腕を掴み、強引に引っ張って外した。

「たっ貴志、いてえよ!」
「ちょ…会長! あなた秀になんてこと…!」

 会長はぎろりと副会長を睨む。そして乱暴に転入生の腕を放すと、俺の手首をそっと持ち上げる。その扱いの差に副会長、転入生が驚いたような反応を見せる。俺も、驚いた。

「か、会長…」

 目が合う。どきりとして、体の体温が上がった気がした。

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