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 俺の何とも言えないであろう表情を見て、更に会長が顔を顰める。

「秀はどうした」
「秀ちゃんはもういいかなあって」
「そうか」

 いや、そうかって。あっさりしてんな。まあ好きな人に近付く人が減るってのは会長からしたらいいことなのか。

「まあいい。仕事しろ」
「分かってるって」

 笑いながら、俺の腕を掴むとずんずんと歩いて行く。何故俺の腕を。会長も不審に思ったようで、おい、と少し苛立ったように声をかけた。

「島田が嫌がってんだろ」
「そう?」

 会計は振り返って俺を見ると、すぐに会長に視線を移す。

「嫌がってんのは会長じゃない?」
「……ああ?」

 会長は目を丸くすると、チッと舌打ちする。そしてにやりと笑った。

「まあ、そいつは気に入ってるからな」
「へえー」

 会計はどうでも良さそうに返事をし、するりと自然な流れで手を握られる。

「ところで島田くん、手冷たいね」
「おい、荒田」

 会長が腰を上げたところで、パッと手が放される。意味深な笑みを浮かべながら少し離れた席に座る。そこが会計のデスクらしい。俺は何だか良く分からないまま会長の隣に座る。もう座り慣れて、自分の席のような感じだ。会長は頬杖を付いて俺をじっと睨む。

「…テメェの手が冷てぇのは俺が良く知ってる」

 ……なんかどうでもいいことで張り合ってきた…。

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