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 視線が体のいたるところに刺さる。それは言わずもがな、この人たちのせいだと溜息を吐く。俺は注文した親子丼から顔を上げ、横と目の前に目を遣って様子を窺う。二人は眉間に皺を寄せて無言で食事を摂っている。マナー的にはいいが、空気は重い。ここから直ぐに去りたい。そこらへんでこっちを羨ましそうに見ている可愛らしい生徒と変わりたい。
 会長が一緒に来るなんて言ったからこうなったのだ。俺と風中先輩は時々一緒に食事をする仲なので最初は色々言っていた周りも、もう何も言わなくなっていった。しかし、会長は話が違う。俺は今まで何もと言っていいほど関わりがなかったし、風中先輩とは仲が悪いということは恐らく周りは知っている。だからこの光景は目を引くのだ。
 俺、明日から苛められるかも……。考えただけで頭が痛くなる。こめかみを押さえて小さく溜息を吐くと、隣の風中先輩が気遣わしげに顔を覗き込んできた。

「体調が悪いのか?」
「いや……えーと…」

 返答に困り曖昧に笑うと、風中先輩は会長を睨む。

「お前が無理させたんじゃないか」
「は? んなわけないだろ。なあ、島田」
「はい、まあ」

 無理はしていない。ただこれからのことを思うと憂鬱なだけだ。

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